Pythonの禅とは?「import this」に隠された秘密を徹底解説

公開日: 2025-09-06

プログラミングを学び始めたとき、誰もが「どう書けば良いコードになるのか?」という疑問を抱きますよね。 Pythonには、その答えを示すような特別な格言集が存在します。それが 「Pythonの禅(Zen of Python)」 です。

しかも、この格言は普通に読めるのではなく、あるちょっとした「秘密のコマンド」を使うことで出てきます。

そのコマンドはこちら。

import this

実行すると、英語で20個……ではなく、なぜか19個の格言が表示されます。 しかも、その内容は単なるプログラミングのルールを超えた哲学に近いものです。

この記事では、Python初心者の方でもわかりやすいように、Pythonの禅の誕生の背景、隠されたジョーク、そして「なぜ禅なのか」 を丁寧に解説していきます。
さらに、Pythonの禅が今日の開発文化にどのような影響を与えているのかについても掘り下げていきます。

「禅」とは何か?なぜ「Pythonの禅」なのか?

まず、ここで立ち止まって考えてみましょう。 なぜ「Zen of Python」なのか?なぜルールやガイドラインではなく"禅"と呼ばれているのでしょうか。

禅(Zen)は、仏教から派生した思想の一つで、特にシンプルさや直感的な悟りを重視します。 禅の修行では「言葉に頼らず、直接体験を通じて本質に迫る」ことが大切にされます。

Pythonの禅も同じです。

単なる「こうすべき」という規則の羅列ではなく、開発者が直感的に「良いコードとは何か」を感じ取れるような格言 になっています。

たとえば「Simple is better than complex.(単純さは複雑さに勝る)」という格言は、数学的な証明も、堅苦しい規則もありません。 ただ短い一文が提示され、読み手自身が「なるほど、無駄に複雑なコードよりも、シンプルな方が扱いやすいよな」と気づくのです。

つまり、禅と名付けられたのは、規則やマニュアルではなく、哲学的な指針として読まれるべきものだから です。 開発者のTim Peters自身がユーモアを交えながらも、どこか思想的なニュアンスを込めていたのでしょう。

Pythonの禅のはじまり:偶然から生まれた歴史

Pythonの禅は、1999年に誕生しました。 当時、Tim Petersという開発者がPythonのメーリングリストに投稿した「The Python Way」というメッセージがきっかけです。

この投稿は、本人曰くただのジョークでした。 実際、文の冒頭には「Clearly a job for Guido alone(これはGuido専用のジョークだな)」と書かれていて、Pythonの生みの親Guido van Rossumへのちょっとした遊び心が込められていました。

さらに、Tim Petersは「20個の格言」と言いながら、実際には19個しか書かないといういたずらも仕込みました。 この「わざと不完全にする」という茶目っ気が、後の「Pythonの禅」のユーモラスな性格につながっていきます。

「import this」が生まれた裏話

Pythonの禅をプログラムから直接呼び出せるようになったのは、2001年のことです。

イベントのきっかけ

Pythonカンファレンスで「Tシャツのスローガンを募集」した際、最終候補に残ったのが次の2つでした。

  • 「Bite off all you like - Chewing is optional」
  • 「import this」

結局、「import this」が選ばれ、その後に大きな仕掛けが待っていました。

秘密の実装作戦

Barry Warsawという開発者は、この「import this」をただのスローガンにとどめず、Pythonの中に隠しコマンドとして実装することを思いつきます。

しかも、その実装はこっそり行われました。チェックイン通知をオフにして、暗号化まで施すという「秘密作戦」だったのです。

その暗号化に使われたのが ROT13。 アルファベットを13文字ずらすだけの単純な暗号ですが、見た目は一見意味不明になります。

実際のソースコードはこんな感じでした。

Copys = """Gur Mra bs Clguba, ol Gvz Crgref

Ornhgvshy vf orggre guna htyl.
Rkcyvpvg vf orggre guna vzcyvpvg.
...
Anzrfcnprf ner bar ubaxvat terng vqrn -- yrg'f qb zber bs gubfr!"""

これをROT13で復号すると、私たちが知っている「Beautiful is better than ugly.」などの格言が現れるのです。

自己矛盾のジョーク

ここで注目すべきは、この this.py モジュール自体が「Pythonの禅」のルールを破っている ということです。

  • 「Beautiful is better than ugly.(美しい方が醜いより良い)」→ でもROT13でわざわざ醜く暗号化している。
  • 「Explicit is better than implicit.(明示は暗黙に勝る)」 → 暗号化で完全に暗黙的にしてしまった。
  • 「Simple is better than complex.(単純さは複雑さに勝る)」 → わざわざ暗号を作って複雑にしている。
  • 「Readability counts.(読みやすさは重要)」 → 読めない。

このように、あえて格言を破ることで皮肉を効かせています。 まさに、禅の逆説的な悟りにも似たユーモアだと思います!

19個しかない格言の謎

もう一つ有名な話が、なぜ19個しかないのか?という謎です。

格言は20個あるとされているのに、実際には19個しか存在しません。 これは意図的に空白を残しているのです。

さらに、Pythonの公式提案文書(PEP)の番号も PEP 20。 20個あるはずのものが19個しかないという構造は、Pythonコミュニティが大好きな 不完全性のジョーク を象徴しています。

Pythonの禅の具体的な内容と意味

では、実際の格言を訳してみましょう。

英語の格言 日本語訳 わかりやすい解説
Beautiful is better than ugly. 美しい方が醜いより良い。 コードは読みやすく、整った形で書こう。
Explicit is better than implicit. 明示は暗黙に勝る。 動作がわかりやすいように、はっきり書こう。
Simple is better than complex. 単純さは複雑さに勝る。 不必要に複雑な仕組みを避けよう。
Complex is better than complicated. 複雑はややこしいより良い。 やむを得ず複雑になる場合でも、整理してわかりやすく。
Flat is better than nested. ネストするより平坦な方が良い。 入れ子構造を深くしすぎないようにしよう。
Sparse is better than dense. 密集よりは疎な方が良い。 詰め込みすぎず、余白を大切に。
Readability counts. 読みやすさは重要。 他人や未来の自分が理解できるコードを書こう。
Special cases aren’t special enough to break the rules. 特別扱いは、ルールを破る理由にならない。 例外的な処理も基本方針に沿って設計しよう。
Although practicality beats purity. ただし実用性は純粋さに勝る。 理想論よりも、実際に動くことを優先しよう。
Errors should never pass silently. エラーは黙ってやり過ごされるべきではない。 問題があれば気づけるようにしよう。
Unless explicitly silenced. ただし、明示的に黙らせるなら別。 意図して抑制する場合のみ例外。
In the face of ambiguity, refuse the temptation to guess. 曖昧さに直面したら、推測する誘惑に抗え。 不明確な場合は曖昧なコードにせず、はっきりさせよう。
There should be one-- and preferably only one --obvious way to do it. あることをする方法は一つ(できれば唯一)明確であるべきだ。 誰が見ても同じ書き方になるのが理想。
Although that way may not be obvious at first unless you’re Dutch. ただし、その方法はオランダ人でなければ最初は明らかでないかもしれない。 Guido(Pythonの作者でオランダ出身)へのユーモア。
Now is better than never. 今やる方が、やらないより良い。 まず動かすことが大切。
Although never is often better than right now. ただし、すぐにやるよりやらない方が良いことも多い。 焦って雑にやるくらいなら、やらない方がマシ。
If the implementation is hard to explain, it’s a bad idea. 実装を説明しづらいなら、それは悪いアイデアだ。 わかりやすく説明できる仕組みを選ぼう。
If the implementation is easy to explain, it may be a good idea. 実装を簡単に説明できるなら、それは良いアイデアかもしれない。 シンプルに説明できるものは良い設計の可能性が高い。
Namespaces are one honking great idea -- let’s do more of those! 名前空間はとても素晴らしいアイデアだ ― もっと活用しよう! 変数や関数の名前が衝突しないように、スコープを意識しよう。

これらはプログラミングのルールというよりも、心構えに近いですよね。
だからこそ"禅"と呼ばれているのです。

サンプルコードと解説

ここでは、「Pythonの禅」の格言が実際のプログラムでどう活かされるのか、具体的なサンプルコードを解説していきます。

1. 美しい方が醜いより良い (Beautiful is better than ugly.)

# 醜いコード(読みづらく、スペースもバラバラ)
def add(a,b):return a+b
print ( add(1,2) )

# 美しいコード(読みやすく、整った書き方)
def add(a: int, b: int) -> int:
    return a + b

print(add(1, 2))

👉 2つ目の例のほうが 整っていて読みやすく、誰が見ても理解しやすい ですね。

2. 単純さは複雑さに勝る (Simple is better than complex.)

# 複雑なやり方:不必要にクラスを使っている
class Calculator:
    def add(self, a, b):
        return a + b

calc = Calculator()
print(calc.add(3, 5))

# 単純なやり方:ただの関数で十分
def add(a, b):
    return a + b

print(add(3, 5))

👉 2つ目の例の方が シンプルで無駄がない ですね。必要以上にクラスを使うのは避けましょう。

3. 読みやすさは重要 (Readability counts.)

# 読みにくいコード:変数名が意味不明
def c(a,b): return a*b
print(c(7,6))

# 読みやすいコード:意味のある名前を使う
def calculate_area(width: int, height: int) -> int:
    return width * height

print(calculate_area(7, 6))

👉 名前をしっかりつけることで、何をしている関数なのかが一目でわかる ようになります。

4. 今やる方が、やらないより良い (Now is better than never.)

# 完璧を求めて悩むより、とりあえず書いてみる
def factorial(n: int) -> int:
    if n == 0:
        return 1
    return n * factorial(n - 1)

print(factorial(5))

👉 完璧なアルゴリズムを探すより、まず動くものを書いてみる ことが大切です。その後で改善すれば良いのです。

Pythonの禅が現代に与える影響

Pythonの禅は、単なる冗談から始まったにもかかわらず、今では教育や文化に深い影響を与えています。

教育的な役割

プログラミング教育では、初心者が「Pythonらしいコード」を書くための指針として使われています。 「シンプルさ」や「読みやすさ」は、言語を超えて役立つ考え方です。

チーム開発での活用

コードレビューの際に「この実装は禅に反しているな」といった会話が交わされることもあります。 ジョークを交えつつも、コード品質を高めるための共通の言語になっているのです。

文化的な広がり

Barry Warsawは禅を音楽にアレンジし、イベントで披露しました。 「The Zen Side of the Moon」というタイトルでオークションに出品されたこともあり、技術を超えた文化的象徴になっています。

まとめ:Pythonの禅は哲学であり、ユーモアであり、指針である

Pythonの禅は、1999年の冗談から始まり、2001年に「import this」という隠しコマンドで実装されました。 ROT13暗号化や自己矛盾の仕掛け、19個しかない格言など、遊び心に満ちています。

同時に、それは 「良いコードを書くための哲学的な指針」 として、今も教育やコミュニティの中で生き続けています。

禅と呼ばれているのは、単なるルール集ではなく、読む人が自分なりに解釈し、悟りを得るためのメッセージだからです。

あなたもぜひ、コードを書きながら「これはPythonの禅に合っているかな?」と問いかけてみてください。

ここまでお読みいただきありがとうございました!

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